失語症の分類
    
      失語症には、様々なタイプがあります。そのタイプによって、言語訓練の計画が異なります。
      言語構造化問題を正しく知ることが必要です。
    
    
      (全体構造法によるタイプ分類)
    
    
    ブローカ(Broca)失語 遠心性運動失語
    
    
    
    
    ウェルニッケ(Wernicke)失語
    
      言語コードの本質的諸特性の抽出やその保持の障害
    
    
      その結果、意味解読が困難となる
    
    
      
        - 1型: 音素単位の選択障害
 
        - 2型: 選択単位の保持障害
 
      
     
    
    伝導失語 求心性運動失語
    
      音の弁別素性を選択して具現化が困難
    
    
      義務音素がない自発語は、プロソディや文法障害なし
    
    
    
    健忘失語 意味性失語
    
      意味マトリックスへの選択接近障害
    
    
      
        - 論理構造の複雑な操作能力障害(空間的配置思考障害)
 
        - 語や意味選択の幅がなく、文脈間の関係が困難
 
        - One track embedding
 
      
     
    
    超皮質性運動失語 力動失語
    叙述(文統合)障害
    符号の限界を超えることばの統合障害(対話能力の障害)
         ↓
    語や習慣的表現
    示された表現(復唱)可能
    文ではなく動詞の名詞化表現
範疇選択は可能である
    Expressive embedding
    
    超皮質性感覚失語 重度の意味性失語
    空間的配置思考障害
    語や意味選択の幅がなく、対話間や文脈間の関係が困難
    One track embedding
    
    回復のための訓練
    
      症例に応じた回復訓練を実施することが必要です。
      全体構造法では、下記のような方針にもとづいて訓練を組み立てます。
      
        - 身体運動や不連続刺激、およびとなえうたを、それぞれのタイプの構造化問題に合わせて組み立てる
 
        - 基本は、その構造化問題の全体から部分へ進める
 
        - 自ら知覚できるよう、課題の目的をひとつに絞る
 
      
     
    
    ブローカ(Broca)失語 遠心性運動失語
    
      呼吸運動から発語運動へ結合 → 発語表現へ → 一語文表現へ → 語結合運動へ(語と語の結合である文法)
    
    
      
        - 統辞障害が根底なので、となえる表現は情緒性豊かなコミュニケーション文でおこなう
 
        - 話しことば文の成立機序に沿い、述部誘導表現
 
      
     
    
    ウェルニッケ(Wernicke)失語
    
      1型: 音素単位の選択障害
    
    
      
        - 音素単位の明確化を目的に、ことばのリズムを用い、語の音素数、音素単位を知覚
 
      
     
    
      2型: 選択単位の保持障害
    
    
      
        - 時間(休止)や妨害刺激での非抑制を援助
統辞問題がないため、となえうたは単語でも無意味語でもよい。選択文節の明確化のため、リズム表現 
      
     
    
    伝導失語 求心性運動失語
    
      構音の求心感覚障害
      
        - 各音素の求心感覚を援助するため、不連続周波数と身体運動を丁寧に。
 
      
     
    
    
      言語に関する把持障害
      
        - 把持スパンを拡大するため、誘導文表現や身体運動を強化
 
      
     
    
    健忘失語 意味性失語
    
      一般化である意味とは、事物や表象や情意を言語で把握する動的な作用のことである(小浜)。
    
    
      この動的な働きの成立過程を、言語発達研究に沿って練習する
    
    
    超皮質性運動失語 力動失語
    叙述および対話能力を訓練
    述部誘導や陳述表現をとなえる
    身体運動も情緒性
    
    超皮質性感覚失語 重度の意味性失語
    情緒性やモードを強調し、繰り返しを増やしながら、情緒の共有を練習
    主体の思い(自己表出性)を練習
    → 健忘失語の訓練
    
    参照文献:2007日本全体構造法臨床研究会全国大会講習会資料、道関 京子
    
    
    
    
    言語訓練【全体構造法】
    
      身体運動、聴覚刺激、発声を合わせて実施する言語訓練が【全体構造法】です。
      全体構造法は、テクニックではありません。
      意識をもった人間の言語活動を目標にするため、医療者側の独りよがりの訓練はおこないません。
      意識をもった人間の言語活動の発展は、本人が自ら高次構造化に気づき、自ら変化することであり、そのための環境を設定するのが、全体構造法の目的です。
      
        - 全体構造法の訓練は、タイプ診断から始まります。症状から、構造化の基底問題を探ります。
 
        - 随意な言語記号体系の構造化に関して、真摯に、丁寧に、手を抜かず、諸人間科学から教えられたことを遂行していきます。
 
        - 言語体系の構造化のプロセスに関して、失語症者から学び、ずっと学び続けていきます。